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ストレスチェック受検対象者の範囲を解説|パートやアルバイト、役員は?

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従業員50人以上の事業場では年1回以上のストレスチェックの実施が義務付けられています。
しかし、パートやアルバイト、出向者などもストレスチェックの受検対象者に含まれるのか、判断に悩むことが多いのではないでしょうか。

また、厚生労働省は2024年10月、従業員50人未満を含む全事業所でのストレスチェック制度を義務付ける方針を固めました。従業員規模に関わらず、受検対象者をきちんと理解しておく必要があります。

本記事では、ストレスチェックの実施対象に含まれる範囲について、雇用形態や勤務状態ごとに解説します。

ストレスチェック受検対象者の「常時使用する労働者」とは?

ストレスチェック受検対象者の「常時使用する労働者」とは?

ストレスチェックの受検対象者は、厚生労働省により「常時使用する労働者」と定められています。厚生労働省が定める常時使用する労働者とは、以下の2つの要件をいずれも満たす者です。


①期間の定めのない労働契約により使用される者(期間の定めのある労働契約により使用される者であって、当該契約の契約期間が1年以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。 

②その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。 

なお、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3未満である労働者であっても、上記の①の要件を満たし、1週間の労働時間数が当該事業場において 同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数のおおむね 2分の1以上である者に対してもストレスチェックを実施することが望まれます。

引用:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル│厚生労働省

上記2つの条件を満たした労働契約を締結している労働者は、ストレスチェックの受検対象となります。

受検対象者の範囲はどこまで?ケース別に解説

受検対象者の範囲はどこまで?ケース別に解説

雇用形態や勤務状況ごとに、ストレスチェックの受検対象者かどうか迷いやすい10のケースについて解説します。

  • 役員
  • 契約労働者、パート、アルバイト
  • 派遣労働者
  • 出向者
  • 海外勤務者
  • 外国人労働者
  • 休職中の労働者
  • 入社直後の労働者
  • 退職予定の労働者
  • うつ病などですでに治療を受けている労働者

参考:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル│厚生労働省

役員

役員は、使用者※であり労働者の範囲に含まれないため、ストレスチェックの実施義務はありません。
ただし、役員が使用者とみなされるかどうかは実態に即して判断されます。そのため、以下のような働き方をしている場合、労働者とみなされてストレスチェックが必要な場合があります。

  • 役員を兼務している(工場長と役員を兼任しているなど)
  • 職務内容が労働者と同じ
  • 会社からの拘束性が高い(勤務時間、勤務先が決まっており勤怠管理や人事考課の対象になっている)
  • 役員報酬ではなく賃金を得ている
  • 雇用保険に加入している

役員はストレスチェックが必要ないと決めつけず、職務内容や権限、報酬体系などを考慮して対象に含まれるかを判断しましょう。

※使用者とは、事業主または事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいいます。

引用:人を雇うときのルール|厚生労働省

契約労働者、パート、アルバイト

前述の「常時使用している労働者」の条件に該当する場合は、契約労働者、パート・アルバイトもストレスチェックの対象者に含まれます。具体的には、以下の①・②のいずれかに加え、③を満たしている労働者が実施対象です。

【①雇用期間の定めなし:無期雇用契約】
・無期雇用契約の契約労働者、パート、アルバイト

【②雇用期間の定めあり:契約期間1年以上
・契約更新により1年以上の使用が予定されている
・1年以上引き続き使用されている

③労働時間】
・正社員など常時雇用者の所定労働時間の4分の3以上
(継続的に雇用されている実態があれば2分の1)

<雇用期間別の該当例>

上記条件の①・②に該当する契約労働者やパート・アルバイトは以下のようなケースです。

  • 雇用期間の定めがない
  • 入社して1年以上経過している
  • 入社後6カ月しか経過していないが、1年以上の雇用契約を結んでいる

<所定労働時間の該当例>

フルタイム勤務の所定労働日数が週5日、時間が週40時間の企業を例に、対象者に含まれる条件を考えてみましょう。

【③労働時間】の条件にある「常勤雇用者の所定労働時間の4分の3以上」を満たすには、週30時間の労働時間が必要です。そのため、1日6時間勤務なら週5日、8時間勤務なら週4日程度勤務している人などがストレスチェックの対象に含まれます。

また、継続的に雇用されている実態があれば、常勤雇用者の2分の1である週20時間以上で条件を満たします。つまり、1日6時間勤務なら週4日、8時間勤務なら週3日程度勤務している人が含まれることになります。

派遣労働者

派遣労働者は、原則的に派遣元の事業者に実施義務があるため、派遣先の企業での実施義務はありません。
しかし、職場環境改善のための集団分析は職場単位で実施することが重要なため、派遣労働者も含めて分析することが望ましいとされています。

派遣元・派遣先のそれぞれで受検する場合、派遣労働者に手間がかかるため集団分析の目的を丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。
また、結果の提供方法や保存先、費用負担などについて、派遣先と派遣元の企業間で決めておく必要があります。

面接指導や就業上の配慮には派遣元との連携が求められる

ストレスチェック実施後に行う、高ストレス者の面接指導や就業上の措置も、派遣元の事業者に実施義務があります。
面接指導の結果、業務や配置変更の必要が生じた場合、派遣元と派遣先の企業が連携し、就業上の措置を行うことが必要です。

労働派遣契約ではあらかじめ業務内容、就業場所などの条件が企業間で定められています。就業上の配慮のため、業務内容や就業場所などの変更が必要な場合は、契約変更を含めて対応しましょう。

また、ストレスチェック結果や高ストレス者面談の結果から契約更新を拒否するなど、不当な扱いをしないよう、十分配慮しましょう。

出向者

出向者が対象に含まれるかどうかは労働契約関係の有無やその実態によって判断されます。
まず、出向には在籍型出向と移籍型出向の2パターンがあります。

移籍型出向は出向元の企業とは雇用関係を解消し、出向先の企業のみと雇用関係を結ぶものです。つまり、移籍型出向者は労働契約関係のある出向先の企業で、ストレスチェック受検対象となります。

在籍型出向は出向元と出向先の両方で雇用関係を結んでいる状態です。
出向先の企業と労働者との間に労働契約が存在するのかを、指揮命令権、賃金の支払いなどの実態を踏まえて総合的に勘案したうえで、ストレスチェックを出向元で行うか、出向先で行うかを判断する必要があります。

派遣労働者と同様に、集団分析は職場単位で実施することが重要なため、労働契約の実態に関係なく、出向先で行うことが望ましいでしょう。

参考:出向の進め方│公益財団法人産業雇用安定センター
参考:ストレスチェック制度関係 Q&A│厚生労働省

海外勤務者

日本の企業から現地に長期出張している場合、ストレスチェックの実施対象に含まれます。しかし、海外の現地法人に雇用されている場合は、日本の法律の適用外となるため、実施対象者には含まれません。

参考:ストレスチェック制度関係 Q&A│厚生労働省

外国人労働者

技能実習生などの外国人労働者も、契約期間と労働時間の条件を満たせば対象範囲となります。その場合、ストレスチェック調査票の多言語化を進めるなど、受検に対する配慮が必要でしょう。

休職者

ストレスチェックの実施時に病気やケガの療養、育休、産休、介護休暇など休職中の労働者には実施義務はありません。

ただし、全ての休職者を対象から外してしまうと、正確な実態把握につながらない可能性があります。例えば、ストレスチェック実施時期にケガで1週間休んだ労働者と、メンタル不調で半年間休職している労働者では負担も異なります。

ストレスチェックに関する社内規程で、「1カ月以上の休職者は実施対象としない」など、具体的な基準を決めておくとよいでしょう。

入社直後の労働者

入社直後の労働者も、雇用期間と所定労働時間の条件が満たされていれば対象範囲に含まれます。
しかし、入社直後は環境変化によるストレスが大きく、本来の特徴からはかけ離れた結果となる可能性があります。そのため、時期をずらして実施することも一つの方法です。

退職予定の労働者

退職予定の場合でも、ストレスチェックの実施時期に会社に在籍していれば対象者に含まれます。
ただし、結果については退職後も個人情報として扱わなければなりません。産業医などのストレスチェック実施者から結果を得る際には、本人の同意が必要となるため注意しましょう。

うつ病などですでに治療を受けている労働者

うつ病などの精神疾患の診断を受けて、通院治療中の労働者も義務対象となります。
ストレスチェックは診断のために行うのではなく、ストレス状態に本人が気づくことや、周囲が環境改善を行うためのものです。そのため、治療の有無にかかわらず対象に含まれます。

しかし、本人にとっては受検が負担になる恐れもあるため、無理に受検を勧奨しないよう配慮が必要です。

ストレスチェックの実施で注意すべき3つのポイント

ストレスチェックの実施で注意すべきポイント

ストレスチェックを実施する上で注意すべきポイントとしては、次の3つが挙げられます。

  1. 受検を強要しない
  2. 10人未満の集団分析には同意が必要
  3. 人事権を有する者は、実施者・実施事務担当者になれない

1.受検を強要しない

事業者には、労働者にストレスチェックを受検させる義務がありますが、労働者には受検が義務付けられていません。そのため、ストレスチェックの対象者に含まれるからといって、受検を強要できないのです。可能なのは、受検の勧奨や意思の確認にとどまります。

ストレスチェックの受検を拒否する労働者がいる場合は、その理由を把握して対策をとりましょう。

理由対策
業務が忙しく時間がないストレスチェック時期を閑散期にずらす、所要時間を伝えておく
人事評価への影響を心配している本人の同意なく会社に知られないなど、情報の取扱いについて周知する
受検する目的がわからない従業員の健康を守るため」「集団分析により職場改善に役立てるため」など目的を説明する

事業者には労働者の安全配慮義務を果たすという目的があるとはいえ、過度な勧奨は労働者らの不満につながります。
衛生委員会などで必要な頻度や説明方法などを審議し、勧奨方法をマニュアル化しておきましょう。

2.10人未満の集団分析には同意が必要

集団分析を行う際には、個人が特定されないような配慮が必要です。しかし、少人数の部署では、集団分析結果から個人の情報が特定されてしまう可能性があります。

厚生労働省のストレスチェックマニュアルでは、10人未満の集団で分析を行う際には、全員の同意が必要とされています。
「全員」とは、部署に所属する労働者のうち、ストレスチェックを実際に受検した人です。
例えば、12名が所属する部署で9名が受検した場合、集団分析を行うには受検者9名の同意が必要となります。

集団分析の対象となる部署の労働者が少ない場合、複数の部署や事業所を合わせて行う方法もあります。どの部署を組み合わせて分析を行うかによって、抽出できる課題が異なります。衛生委員会などで審議したり、産業医に相談したりしながら、適切な方法を検討しましょう。

参考:心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針│厚生労働省

3.人事権者は実施者、実施事務従事者になれない

ストレスチェックの実施には、実施者と実施事務従事者が主に携わります。実施者とは、ストレスチェックの実施と評価を行い、産業医や保健師、公認心理師などの専門職がその役割を担います。実施事務従事者は、調査票の配布や回収、結果の通知など事務的な業務を担当するものです。

しかし、労働安全衛生規則第52条の10第2項では、以下のように人事権を有する者に対して一定の制限を課しています。

検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない
引用:改正労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度について|厚生労働省

つまり、社長や部長をはじめとした、異動や解雇などに関する権限を有する者は、実施者と実施事務従事者になれません。例えば、以下のようなケースが該当します。

  • 産業医資格を有する医療法人の院長が、ストレスチェックの実施者になる
  • 人事権を有する人事部長が実施事務担当者になる

人事部所属であっても、人事に関する直接的な権限がない場合は、実施事務担当者になることが可能です。ストレスチェックの担当者を決める際には、人事権の有無に注意しましょう。

ストレスチェックの集団分析をして、職場環境改善へつなげよう

ストレスチェックは労働者のストレスレベルや原因を把握し、メンタルヘルス不調を未然に防止することが目的です。ストレスチェックを実施して終わりではなく、中長期的な視点で職場環境改善に取り組みましょう。