【簡単に解説】ワークエンゲージメントとは?高める方法や質問項目、研修例を紹介
働き方が大きく変化したコロナ禍以降、仕事において心身の健康を保つことが重要です。従業員の高齢化と生産年齢人口の減少が深刻化し、健康経営の考え方や産業保健活動の推進に注目が集まっています。
特に、最近では不調を改善するための対策だけでなく、従業員がいきいきと働ける職場環境づくりが求められています。従業員の働きがいを示す指標として注目されているのが、ワークエンゲージメントです。
本記事では、ワークエンゲージメントの高め方や研修例、測定のための質問項目について解説します。
ワークエンゲージメントとは
ワークエンゲージメントとは、仕事に対するポジティブな心理状態です。一時的な状態ではなく、仕事に対して向けられる持続的な感情や認知を指します。具体的には、以下のように活力・熱意・没頭の3つの要素がそろった状態です。
【活力】仕事から活力を得ていきいきとしている
【熱意】仕事に誇りとやりがいを感じている
【没頭】仕事に熱心に取り組んでいる
また、ワークエンゲージメントにはいくつか類似した概念があります。ワークエンゲージメントの特徴を理解するため、類似概念の違いについて詳しく解説します。
仕事へのエネルギッシュでポジティブな態度
参考:令和元年版 労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-│厚生労働省 より作成
上の図のように、ワークエンゲージメントは仕事への態度・認知がポジティブな状態であり、また活動水準が高い状態を指します。
ワークエンゲージメントと対極の概念となるのが、バーンアウト(燃え尽き)です。バーンアウトは仕事に熱心に取り組んだ結果として、燃え尽きてしまい抑うつ状態に至り、仕事への興味・関心や自信が低下した状態を指します。
また特に重要なのが、ワーカホリズムとの違いです。ワーカホリズムは、ワークエンゲージメントと同様に仕事に対する活動性は高いものの、仕事への態度・認知はネガティブという状態を指します。
例えば、働かないと罪悪感を抱いたり、完璧主義な性格から過剰に働いたりする傾向です。一生懸命に働くところは似ていますが、強迫的に働く傾向であり、仕事に対する動機づけが異なります。
従業員のワークエンゲージメントを考える際には、活動性の高さだけでなく、背景にある動機づけにも注目する必要があります。
従業員エンゲージメントとの違い
ワークエンゲージメントと類似した概念として、従業員エンゲージメントがあります。所属している会社組織に貢献したいという意欲を指す言葉です。
ワークエンゲージメントは個人と仕事の関係に注目した概念です。一方で、従業員エンゲージメントは個人と組織の関係に重点を置くという違いがあります。
従業員エンゲージメントを高めることで、組織に対する従業員の愛着を深められます。その結果、仕事のモチベーション向上や離職率低下につながるでしょう。企業が成長するため、ワークエンゲージメントと同様に重要な概念です。
ワークエンゲージメントを高める3つのメリット
ワークエンゲージメントは、健康経営や産業保健の視点から重要な概念です。会社全体で高めるためには、組織的な仕組みづくりが必要となります。そして、効果的な仕組みづくりのためには、具体的なメリットを明確に提示できると社内の合意を得やすいでしょう。
ワークエンゲージメントを高めると、どのようなメリットがあるのでしょうか。以下の論文を参考に紹介します。
参考:職業性ストレスとワークエンゲージメント│ストレス科学研究
1.従業員の健康保持増進
ワークエンゲージメントが高い従業員は、心理的苦痛や体調不良の訴えが少ないとされています。そのため、ワークエンゲージメントを高める施策は従業員の健康保持増進につながるでしょう。
また、ワークエンゲージメントは「仕事に誇りを持つ」「いきいきと働く」という側面があります。ポジティブな変化を促すものであるため、さまざまな施策に対して抵抗なく取り組みやすいでしょう。従業員全体が積極的にワークエンゲージメントを高めることで、健康保持増進の効果が期待できます。
2.会社へのコミットメントを高める
ワークエンゲージメントが高い従業員は、仕事の満足感や会社に対する態度がポジティブだとされています。離職や転職の意思が低く、会社に貢献しようとする気持ちが強いことが特徴です。
また、自己啓発を積極的に行ったり、役割外の業務もこなしたりするなど、自発性が高い傾向があります。ワークエンゲージメントを高めることで、組織に貢献できる自律的な人材が育ち、生産性の向上が期待できるでしょう。
3.会社全体にポジティブな影響を与える
ワークエンゲージメントが高い従業員がいると、周囲のメンバーにもポジティブな影響を与えられます。仕事に対する態度や考え方は、周囲に波及しやすいからです。そのため、従業員個人のワークエンゲージメントを高める取組を行うことで、会社全体の活力を向上させられるでしょう。
ワークエンゲージメントを高める4つの施策
ワークエンゲージメントを高めるには、以下の「仕事の資源」と「個人の資源」を増やす取組が重要です。
「仕事の資源」とは、仕事の負担を軽減し、個人の成長を促す環境的な要因のことです。
具体例として、公正な評価制度・上司や同僚からのサポート・仕事の裁量権・パフォーマンスへのフィードバックなどがあります。
「個人」の資源とは、ポジティブな心理状態に影響する個人の性格や資質のことです。
具体例として、粘り強さ・事故効力感・楽観性などがあります。
仕事の資源(環境的要因)と個人の資源(個人要因)が互いに影響し合い、ワークエンゲージメントを高めます。2つの資源を高めるための具体的な取組を4つ紹介します。
1.従業員を正当に評価する仕組みづくり
ワークエンゲージメントを高めるには、従業員の仕事ぶりを正当に評価する仕組みが大切です。昇給や昇格などの評価は、仕事に対するポジティブなフィードバックにつながります。社内でポジティブに評価されることで、自己効力感が増し、ワークエンゲージメントが向上するでしょう。
ただし、「従業員にとって、何が最適な評価となりうるか」という視点も重要です。39歳以下の正社員は年収増加でワークエンゲージメントが向上するが、40代以上では上昇しにくいことが分かっています。
そのため、昇給や昇格ができたからといって、ワークエンゲージメントが向上するとは限りません。仕事のやりがいや意義、使命などの内発的な動機づけも高められるような仕組みづくりが求められます。
参考:令和元年版 労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-│厚生労働省
2.休憩時の運動促進
疲労回復を目的とした運動として注目される「アクティブレスト」も、ワークエンゲージメントを高める効果が示されています。
130人を対象とした研究で、以下の条件で運動を行った結果、ワークエンゲージメントのうち「活力」が向上しました。
・週に3~4回を8週間
・昼休みに10分間の運動
・ストレッチや有酸素運動を行う
昼休みに適度な運動を取り入れるという取組を行うと、働くための活力を高められる可能性があります。
参考:The Introduction of an Active Rest Program by Workplace Units Improved the Workplace Vigor and Presenteeism Among Workers A Randomized Controlled Trial│Journal of Occupational and Environmental Medicin
3.1on1ミーティングを密に行う
1on1ミーティングとは、上司と部下が定期的にミーティングを行うものです。ミーティングにおいて目標を共有し、成果に対して適切なフィードバックを行うことが自信を高めます。
自信の向上こそが、個人の資源を増やし、ワークエンゲージメントの向上につながります。ある程度の努力が必要な目標であると達成時に自信がつくため、やりがいがより高まるでしょう。
人員が多く、管理職との立場が大きく異なる組織では、メンター制度を取り入れることもおすすめです。立場の近い先輩から丁寧にフィードバックを受けることで、目標を持って仕事に取り組めます。
4.適性に応じた業務を割り振る
従業員の能力や適性に応じた仕事を割り振ることで、自分の長所を生かして組織に貢献できるようになります。「組織の中で役に立っている」という自信につながり、ワークエンゲージメントを高めます。
また、適性に合わせた業務の裁量権を大きくすることも大切です。裁量範囲が広くなれば、「自分の力で仕事に取り組めている」という感覚が強くなります。
従業員の適性を正しく把握し、能力を十分に発揮できる業務や裁量権を割り振ることで、自信を持って働けるでしょう。
ワークエンゲージメント向上のための研修・プログラム例
ワークエンゲージメントの向上のため、人事・労務担当者が主体となって研修を行うことも必要な施策です。
仕事のやり方を見直す機会を設けることに加え、各現場で定期的に実施できるような仕組みづくりが重要です。日常業務の中でも取り入れやすい研修やプログラム例を紹介します。
1.ジョブ・クラフティング
ワークエンゲージメントを高めるワークとして代表的なのがジョブ・クラフティングです。従業員が仕事にやりがいを持てるよう、働き方を見直すプログラムです。
プログラムでは、仕事のやり方、周囲との関わり方、考え方の3つの工夫をテーマとします。例えば、以下のようなポイントを話し合います。
・仕事のやり方:スケジュールやタスク管理方法
・周知との関わり方:顧客とのコミュニケーションの取り方
・考え方:仕事の目的や意義の再確認
まずは、事例をもとにどのような工夫があれば進めやすいかを検討し、次に自分の仕事に必要な工夫を考えます。グループで話し合うことで、他のメンバーの工夫を知り、自分の仕事に取り入れることが可能です。
ジョブ・クラフティングは、ワークエンゲージメントを高めるとともに、ストレス反応を軽減する効果が示されています。仕事に対する姿勢を再認識したり、周囲の考えを取り入れたりするなど、新たな気づきを得ることが仕事のやりがいを高めるでしょう。
参考:ジョブ・クラフティング研修プログラム実施マニュアル│島津明人研究室
2.CREWプログラム
CREWプログラムは、2005年にアメリカで生まれた、職場において話し合う場を設けるものです。テーマを決め、週1回、15分というように定期的に実施します。話合いのテーマは詳しく決まっていませんが、以下の3つのポイントを意識するとよいでしょう。
お互いを知る:「自分を動物に例えると?」
敬意・尊敬について考える:「相手に敬意を伝える方法」
今後の職場を考える:「理想の職場とは?」
CREWプログラムを定期的に行うことで、職場のメンバー同士が敬意を持って接するような風土を形成することを目的とします。また、職務満足度や在職率、顧客満足度の向上に寄与すると考えられています。
参考:CREWプログラム実施マニュアル│島津明人研究室
3.思いやり行動向上プログラム
「思いやり行動」とは、職場内で困っていたり、忙しそうにしていたりするメンバーを見たら、自発的にサポートする行動です。サポート行動を増やし、人間関係や職場環境の改善を目指します。
プログラムでは、管理職と非管理職のグループに分かれて、どのような援助があると助かるかを話し合います。立場が同じメンバー同士で共有した後、グループ間でも手伝ってほしい内容を伝え合います。
ディスカッションを通して、どのような行動をしてもらえると助かるかをメンバー間で共有できるため、助け合うための行動が活発になります。また、立場の違うメンバー間で、望んでいる行動にどのような違いがあるかを理解できると、サポート行動のズレが起こりにくいでしょう。
思いやり行動向上プログラムを実施することで、お互いにサポートし合う行動が増え、生産性の向上や離職の防止につながるとされています。
参考:思いやり行動向上プログラム実施マニュアル│島津明人研究室
ワークエンゲージメントを測定する質問項目
従業員の現状を把握する目的や、取組の効果検証として、ワークエンゲージメントを測定することも重要となります。
ワークエンゲージメントを測定する尺度として用いられるのは、短縮版UWES(ユトレヒト・ワークエンゲージメント尺度)です。以下の9項目の質問に答えるだけで、ワークエンゲージメントを測定できます。
【質問項目】
<活力>
①仕事をしていると、活力がみなぎるように感じる
②職場では、元気が出て精力的になるように感じる
③朝に目がさめると、さあ仕事へ行こう、という気持ちになる
<熱意>
④仕事に熱心である
⑤仕事は、私に活力を与えてくれる
⑥自分の仕事に誇りを感じる
<没頭>
⑦仕事に没頭しているとき、幸せだと感じる
⑧私は仕事にのめり込んでいる
⑨仕事をしていると、つい夢中になってしまう
引用:令和元年版 労働経済の分析-人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-│厚生労働省
労働政策研究・研修機構が行った調査では、正社員全体のワークエンゲージメントスコアの平均は3.42でした。ワークエンゲージメントのうち、「熱意」が高い一方で「活力」が低い傾向にあることが特徴です。
年齢層や職位、業種によって平均値は異なるため、自社での測定では年齢層や立場、職種別に分析すると正確に把握できるでしょう。
その他にも、MBI-GSやOLBIという尺度があります。ただ、この2つの尺度はバーンアウトの程度を調べるものであり、UWESの方が正確に評価できるでしょう。
ワークエンゲージメントの向上が企業の成長につながる
ワークエンゲージメントは、仕事に対するポジティブな心理状態を表す言葉であり、企業の成長に必要な要素です。
ワークエンゲージメントを高めることで、従業員は積極的に仕事に取り組み、自ら研さんできる人材へと成長できます。自律的な人材を育てることは企業の成長につながり、変化の多い現代にも対応できる強い組織をつくります。
本記事で紹介した内容をもとに、産業保健スタッフと連携しながら、ワークエンゲージメントを高める施策に取り組んでいきましょう。