ストレスチェックの点数を計算する方法は?高ストレス者の判定基準を解説
ストレスチェック実施後には、結果の算出と解釈を行う必要があります。しかし、計算方法が複雑で困っている人事労務担当者の方も多いのではないでしょうか。
また、事後対応として行う面接指導の高ストレス者の判定基準も、どう決めればよいか理解が難しいポイントです。
本記事では、ストレスチェックの点数を計算する方法や高ストレス者を選定する基準について解説します。
ストレスチェック調査票に必要な3領域
ストレスチェックの項目数は、その決定が事業場ごとに委ねられていますが、以下の3領域を含むことが義務付けられています(労働安全衛生規則第52条の9)。
- 職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目(仕事のストレス要因)
- 当該労働者の心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目(心身のストレス反応)
- 職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目(周囲のサポート)
参考:ストレスチェック制度に関する法令│厚生労働省
厚生労働省が推奨する職業性ストレス簡易調査票には、23項目、57項目、80項目、120項目の4種類があります。今回は、57項目での計算方法を具体的に紹介します。
職業性ストレス簡易調査票57項目版
まず、ストレスチェックの計算方法を説明する前に、質問票に含まれている項目について解説します。
厚生労働省が推奨する、57項目の職業性ストレス簡易調査票は、以下の4つの領域から構成されています。
領域A:仕事のストレス要因
領域B:心身のストレス反応
領域C:周囲のサポート
領域D:満足度
領域A:仕事のストレス要因
引用:職業性ストレス簡易調査票(57 項目)│厚生労働省
仕事の量や質、コントロール、職場環境や人間関係など外的なストレス要因をチェックする17項目です。その他、仕事の適性度や働きがい、身体的な負担など、個人の状態についても尋ねる内容となっています。
領域B:心身のストレス反応
引用:職業性ストレス簡易調査票(57 項目)│厚生労働省
心身のストレス反応をチェックする29項目です。めまいや頭痛、腰痛、食欲不振などの身体面と、活気やイライラ感、不安感などの精神面の症状について尋ねます。
領域C:周囲のサポート
引用:職業性ストレス簡易調査票(57 項目)│厚生労働省
従業員が抱えるストレスを和らげる、周囲のサポートについてチェックする9項目です。上司や同僚、家族、友人などに相談できる状態かどうかを調べます。
領域D:満足度
引用:職業性ストレス簡易調査票(57 項目)│厚生労働省
仕事や家庭生活に関する満足度を尋ねる2項目です。従業員のストレス状況を把握するために参考となる情報です。産業医などのストレスチェック実施者が、従業員の仕事や家庭生活の状況を理解し、ストレス状況をより詳しく理解するために必要です。
しかし、高ストレス者の判定を行う際には、計算に含まないので注意しましょう。
ストレスチェックの点数を計算する2つの方法
ストレスチェックの計算方法は、次の2つがあります。
- 単純合計計算法
- 素点換算法
単純合計計算法
単純合計計算法とは、調査票の項目ごとの得点をもとに、合計得点を算出する方法です。計算は以下の手順で行います。
- 項目ごとの得点をチェックする
- 逆転項目(※下記画像のグレー枠内の質問)の得点を逆転させる
- A、B、Cの領域ごとに得点を算出する
引用:数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法│厚生労働省
計算で注意が必要なのは、逆転項目の計算です。点数が低いほどストレスが高いと評価される項目で、以下のように点数を逆転させて計算する必要があります。
- 5点→1点
- 4点→2点
- 3点→3点
- 2点→4点
- 1点→5点
逆転項目に含まれる項目は、上記画像のグレー枠で示される項目で、領域ごとの内訳は以下の通りです。
- 領域A:1~7、11~13、15
- 領域B:1~3
- 領域C:なし
単純合計計算法のメリット・デメリット
単純合計計算法のメリットは、計算方法が簡単で導入しやすい点です。
一方で、「心理的な仕事の負担(量)」などの尺度の高低を捉えにくいことがデメリットです。
得点が高い領域があっても、具体的なストレスの要因や特徴を把握しにくく、個人のプロフィールを作成するのには不向きです。
また、質問項目の点数を単純に合計するため、項目数が多い領域ほど高得点となります。そのため、合計得点だけを見ていると特徴を誤認してしまう可能性があります。
例えば、項目数の多い領域Bの得点は、項目数が少ない領域Cよりも点数が高くなる傾向があるでしょう。得点が全体の中で高いのか、平均的なのかを一目で判定しにくく、誤解を生みやすい点がデメリットといえます。
参考:数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法│厚生労働省
素点換算法
素点換算法は、各項目の点数を素点換算表に当てはめて算出する方法です。計算の手順は、以下のように行います。
- 各項目の点数をチェックする
- 素点換算表に基づいて、尺度ごとの評価点を算出する
- A、B、Cの3領域ごとに評価点を合計する
各領域の尺度ごとに合計得点を出し、計算式と換算表に沿って評価点を算出します。評価点の算出は、下記画像の赤枠で囲った部分の計算式をもとに行います。例えば、領域A「心理的な仕事の負担(量)」の項目が、以下のような回答であった場合を考えてみましょう。
No.1 非常にたくさんの仕事をしなければならない ・・・1
No.2 時間内に仕事が処理しきれない・・・1
No.3 一生懸命働かなければならない・・・2
引用:数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法│厚生労働省をもとに作成
計算式は【15-(No.1+No.2+No.3)】ですので、【15-(1+1+2)=11】で素点は11、評価点は2(やや高い/多い)に該当します。
評価点は1~5の5段階で示され、数字が大きいほどストレスが少ないと判定されます。
素点換算法のメリット・デメリット
領域別に尺度ごとで評価点を算出できるため、個人のストレス状態を細かく把握できます。しかし、計算方法が複雑で、慣れるまでに時間がかかる可能性があります。
高ストレス者の判定基準
ストレスチェックの点数に応じて、一定の基準を上回る従業員を高ストレス者と判定します。高ストレス者と判定された従業員から希望があった場合、企業は医師による面接指導を行う義務があります。
高ストレス者の判定基準は、企業が自社の特徴や健康課題の傾向を踏まえて設定します。多くは厚生労働省が定める基準を参考に決めることが多いでしょう。厚生労働省による高ストレス者の選定基準は以下の2つです。
①「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が高い者
②「心身のストレス反応」に関する項目の評価点の合計が一定以上であり、かつ「仕事のストレス要因」及び「周囲のサポート」に関する項目の評価点の合計が著しく高い者
引用:労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度実施マニュアル│厚生労働省
高ストレス者の判定基準は、計算方法によって算出の仕方が異なります。単純合計計算法と素点換算法の2つのパターンを説明します。
単純合計計算法の場合
単純計算法の場合は、以下のいずれかの条件で合計点数を上回ると、高ストレス者と判定されます。
- 心身のストレス反応(領域B)の合計点数が77点以上
- 心身のストレス反応(領域B)の合計点数が63点以上であり、かつ仕事のストレス要因(領域A)と周囲のサポート(領域C)の合計点数が76点
素点換算法の場合
素点換算法の場合、各領域ごとに評価点の合計を算出します。評価点の合計が以下のいずれかの基準に該当する場合、高ストレス者と判定されます。
- 心身のストレス反応(領域B)の評価点合計が12点以下
- 心身のストレス反応(領域B)の評価点合計が17点以上でかつ、仕事のストレス要因(領域A)と周囲のサポート(領域C)の評価点合計が26点以下
事業場に合わせて独自基準を設定することも可能
厚生労働省が定める高ストレス者の判定基準は、その割合を組織全体の10%程度と推定した場合の数値です。つまり、ストレスチェックによって、組織の上位10%の高ストレス者を判定できるようになっています。
ただし、必ずしも10%である必要はなく、企業の方針や事業場のストレス者の割合を考慮して変更可能です。例えば、メンタルヘルス不調による休職者が増加している場合、高ストレス者と判定される割合を増やす方法も有効です。前年度は10%のところを12%と基準を変更することで、リスクを拾い切れていない従業員にも気づきを促すことが可能となります。
具体的な基準の設定や変更については、産業保健の知識や経験が不可欠です。産業医と連携しながら決めるとよいでしょう。
どちらの計算方法を選べばいい?
ストレスチェックの計算方法を選択するときのポイントについて解説します。
「精度を求める」なら素点換算法
素点換算法の方が、質問項目数の偏りを平準化しているため、より精度の高い計算方法といえます。 また、ストレス要因や症状について詳しく把握できるため、従業員は自分の問題をより具体的に理解できるでしょう。 さらに、抱えているストレスが具体化され、従業員一人ひとりに必要な配慮が明確になります。 ストレスチェック結果の精度を高め、就労上の配慮を明確にしたい場合は、素点換算法が適しています。
「計算のしやすさ」を優先するなら単純合計計算法
計算のしやすさを優先する場合は、単純合計計算法が適しています。 得点を各領域ごとに合計するだけなので、複雑な手続きが不要で計算しやすい方法です。
計算方法や高ストレス者の判定基準に迷ったら、産業医に相談を
素点換算法と単純合計計算法を比較した調査では、高ストレス者と判定される割合は素点換算法の方が1.5%高いことがわかっています。
単純合計計算法では素点換算法よりも判定される高ストレス者が少なくなり、メンタルヘルス不調の兆候がある従業員を見過ごす恐れがあるでしょう。
また、単純合計計算法では、身体症状の得点が高い対象者が高ストレス者と判定されやすい傾向があります。
そのため、得点だけで評価すると誤った解釈につながりかねません。例えば、単純合計計算法の得点では身体症状よりも抑うつ症状が低いという場合、実際は計算採点方法が原因で高くなっている可能性があります。身体症状以外の得点を過小評価する可能性があるので、解釈には注意しましょう。
参考:ストレスチェック制度における2つの高ストレス者判定方法の比較│産業衛生学雑誌
判定基準設定の具体的な方法に関しては、メンタルヘルスに関する知識がないと難しいものです。計算方法や高ストレス者の判定基準は、産業医と連携して衛生委員会で審議し、社内で決定していくことが重要です。