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【働き方改革】長時間労働を減らす対策4選!企業事例も紹介

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平成31年より施行された働き方改革関連法の一環として、時間外労働や休日労働の上限規定が設けられました。長時間労働が常態化する企業への是正指導も強化されており、従業員の労働時間の適正化が企業に求められています。

長時間労働対策は、従業員の健康を守り、健康経営を推進する上で欠かせない施策です。しかし、対策を行っても長時間労働が減らず、困っている人事担当者の方も多いのではないでしょうか。

長時間労働の問題は、業務プロセスや従業員の意識などさまざまな要因が影響しており、多面的な視点での対策が必要です。本記事では、長時間労働を減らすための対策を、企業の事例も合わせて紹介します。

長時間労働とは?

長時間労働とは?


長時間労働に対する法律上の明確な定義はありませんが、一般的には以下の2つを一定の基準として長時間労働を定義します。

・労働基準法上の36協定
・過労死ライン

自社の従業員の特徴や業務の質などを考慮して、健康状態に影響を及ぼす労働時間数を判断する必要があります。

労働基準法上の36協定

労働基準法では、原則として1日8時間、1週間40時間以内の時間が法定労働時間として定められています。時間外労働をさせる場合は、36協定の締結(労働基準法第36条による労使協定)と所轄の労働基準監督署長への届出が必要です。

36協定を締結する際には、時間外労働時間の上限を決めなければなりません。従来は時間の上限はありませんでしたが、平成30年6月に改正された労働基準法により、罰則付きの上限が設けられました[1]。

時間外労働の上限は、原則的に月45時間、年360時間までとされています。ただし、特別の事情があり、労使の合意があれば以下の条件でも認められます。

・年720時間、複数月の平均が80時間以内
・月100時間未満
・月45時間を超えるのが年間6か月以内

36協定の範囲内であっても、労働時間が長くなるほど過労死との関連性が高くなります。上限時間内であっても、必要最小限の時間にとどめるなど、従業員の健康に配慮する必要があります。

過労死ライン

過労死ラインとは、労災認定時に業務負担と健康障害の発症との関連性を示すための時間外労働の基準です。以下の条件で時間外労働が認められる場合、過労死ラインに該当します[2]。

・発症前1ヶ月間に概ね月100時間
・発症前2~6か月前にわたって概ね80時間

ただし、時間外労働が月45時間を超えると健康障害リスクが徐々に高まるため、上記の時間内であっても注意が必要です。

長時間労働の現状

長時間労働の削減を目指して、平成31年より働き方改革関連法が順次施行され、36協定の時間外労働の上限規定が設けられました。

下図のように、法改正以後はパートタイムを含む従業員の総労働時間や所定外労働時間(時間外労働)は減少傾向にあります。

年間総実労働時間の推移(パートタイム労働者を含む)

年間総実労働時間の推移グラフ

引用:令和5年版過労死等防止対策白書│厚生労働省

正社員は「働き方改革関連法」成立以後も横ばい

一方で、雇用形態別に労働時間を検討すると、正社員よりもパートタイム労働者の総労働時間減少が顕著です。全体の総労働時間の減少は、パートタイム労働者の増加による影響も大きいでしょう。そのため、正社員に限定すると、労働時間が短縮されているとはいいにくい現状があります。

就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移

	就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移グラフ

引用:令和5年版過労死等防止対策白書│厚生労働省

令和6年より時間外労働の上限規制の適用業種が拡大

時間外労働の上限規制は、業務特性や取引慣行の課題を考慮して、以下の業種は適用が5年間猶予されていました。令和6年4月に猶予期間が終了し、上限規制が適用開始されています[3]。

・工作物の建設の事業(災害時の復旧、復興事業を除く)
・自動車運転の業務
・医業に従事する医師
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業

上限規制の適用拡大により、トラックやバス、タクシーのドライバーや建設業、医師が対象となりました。しかし、長時間労働の上限規定に対して、各業種の現場からは戸惑いの意見も挙げられています。

建設業では、人員不足や業務負担の増大により上限規制への対応に苦慮しているという状況があります。天候や下請け企業の能力、元請け企業の作業工程など、自社の努力だけでは労働時間削減が難しいと感じている企業が多いようです[4]。

運輸業においては、法改正によって「マイナスの影響がある」と答えた企業が、全ての業種のうち59%と唯一過半数を占めています[5]。具体的には、売上・利益の減少、従業員の収入減少など利益面の影響です。また、長時間勤務を前提とした業務プロセスが一般的であるため、人員体制や進め方の改善の必要に迫られています。

以上のように、上限規制の適用が拡大されたものの、罰則規定を設けたとしても組織全体の調整が必要なケースも多いでしょう。対象となる多くの企業は対応に苦慮しているといえます。

参考:
[1]36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針│厚生労働省
[2]脳・心臓疾患の労災認定│厚生労働省
[3]建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制│厚生労働省
[4]『罰則付き時間外労働の上限規制に関する Web アンケート調査』の実施結果│一般財団法人建設業技術者センター
[5]大同生命サーベイ(2024年2月度調査)│大同生命保険株式会社

長時間労働が減らない原因

長時間労働が減らない原因

長時間労働が減らない原因として、以下の5つが挙げられます。

・人手不足による業務過多
・非効率的な業務プロセス
・マネジメント体制の不備
・従業員の認識不足
・残業を肯定する企業風土

人手不足による業務過多

人手不足により、従業員が業務過多となることが原因の一つです。日本の労働力人口は、2050年には2021年に比べて29.2%も減少すると推計されています[6]。少子高齢化に伴う人員不足は今後も続くでしょう。

また、業務の繁忙期・閑散期の差が大きい業種では、余剰人員を抱えず、閑散期に合わせて人員を配置しているケースもあります。そのため、繁忙期の長時間労働が常態化しやすいでしょう。

非効率的な業務プロセス

非効率的な業務プロセスを慣習的に続けていることも、長時間労働につながります。例えば、必要のない残業や慣例で続けている会議が該当します。

また、組織内の情報共有不足や役割、責任があいまいであると非効率になりやすいでしょう。作業を重複して行っていたり、メンバー間の連携不足からミスが生じたりすると業務量が増えてしまいます。

さらに、業務効率化ツールやデジタル化に社内の抵抗感があり、煩雑な管理が改善せずに業務量が減らないケースもあります。

マネジメント体制の不備

管理職が部下を適切にマネジメントできる体制が整っていないと、労働時間の管理ができず、長時間労働化しやすいでしょう。管理職が部署内メンバーの業務量や進捗状況、時間外労働・休日出勤の状況など、労働時間の管理ができていないと改善されません。
特に最近では、テレワークの普及により、労働時間の管理が難しくなっています。

また、管理職がプレイングマネージャー化していると、部下の仕事を引き受けて管理職の長時間労働が常態化してしまうケースがあります。

テレワークや管理職自身の時間外労働など、可視化しにくい労働時間を含めてマネジメント可能な体制がないと、改善しにくいでしょう。

従業員の認識不足

従業員の業務効率化に対する認識が甘いと、長時間労働の原因になります。時間意識を持ってメリハリのある仕事ができず、必要のない残業をしてしまいます。特に、給与水準が低い場合、残業代のためにだらだら働いてしまう可能性があるでしょう。

残業を肯定する企業風土

成果を出している従業員よりも、長時間働く従業員が評価される風土も長時間労働を助長しかねません。組織全体で生産性向上施策を進めたとしても、長時間労働が評価される風土だと、改善のためのモチベーションが上がりません。結果として、長時間労働が削減されることなく、常態化してしまいます。

参考:[6]令和4年版 情報通信白書│総務省

長時間労働が企業にもたらす悪影響

長時間労働が企業にもたらす悪影響

長時間労働が企業にもたらす悪影響として、以下の4つが挙げられます。

・従業員の健康リスク
・従業員の意欲低下
・企業全体のコスト増加
・罰則・是正指導による企業活動の制限

従業員の健康リスク

長時間労働は、脳・心臓疾患や精神疾患などの健康障害の原因になります。長時間労働による睡眠時間が短くなると脳・心臓疾患の発症リスクが増加するとされています[7]。

また、精神面でも、疲労を前日に持ち越すほど、うつ病や不安障害の疑いがある人が増加する傾向があることがわかっています[8]。身体面だけでなく、精神的にも悪影響を及ぼすといえるでしょう。

最悪の場合、過労死や自殺にいたり、労働災害の認定や損害賠償請求の対象となる可能性もあります。企業として、長時間労働の常態化を防ぎ、健康状態の悪化を予防する必要があります。

従業員の意欲低下

身体疾患やメンタルヘルス不調に陥らなくても、業務効率に悪影響を及ぼす恐れもあります。短時間睡眠が続いたり、休養が取れずにワークライフバランスが十分でなかったりすると、意欲や集中力が低下しやすくなるでしょう。

アブセンティーズムの増加を招き、生産性が低下してしまうなど、企業の収益性にも影響を及ぼします。

企業全体のコスト増加

長時間労働により健康状態が悪化すると、休職や離職が増加し、人材面でのコストが増大してしまうでしょう。離職率が高くなると、新たな人材を採用したり、教育したりするコストもかかります。

また、長時間労働が原因で何らかの疾患が発症した場合、労災に認定される可能性もあります。企業の信頼度が低下するとともに、補償費が生じるため、コストが増大してしまうでしょう。

脳・心臓疾患による労災認定適用範囲の拡大

令和3年9月より、脳・心臓疾患による労災認定の基準が改正されました。過労死ラインに該当する労働時間には満たない場合でも、以下の要因も評価対象として含まれます[9]。

・過労死ラインに近い労働時間+一定の労働時間外での負荷
・勤務間のインターバルが短い勤務
・身体的負荷を伴う業務

長時間労働の基準に該当するかどうかだけでなく、勤務体制や業務内容、業務外のストレスも加味して対応する必要があるでしょう。

罰則・是正指導による企業活動の制限

長時間労働が常態化していると、労働基準監督署による是正指導の対象となる可能性があります。国による長時間労働への監督指導が強化されており、令和5年度は26,117の事業場が対象となっています[10]。

是正指導の結果、企業名が公表されるケースもあり、取引先や顧客、株主などからの信頼を損なう恐れがあります。また、健康優良法人認定企業では、企業名の公表や複数回の指摘を受けた場合、認定取消処分となる可能性もあります[11]。

参考:
[7]長時間労働と健康問題│日本労働研究雑誌
[8]令和5年版 過労死等防止対策白書〔概要版〕│厚生労働省
[9]脳・心臓疾患の労災認定基準を改正しました│厚生労働省
[10]長時間労働が疑われる事業場に対する令和5年度の監督指導結果を公表します│厚生労働省
[11]「健康経営優良法人認定」変更・返納・取消規約│経済産業省

企業に求められる長時間労働対策4選

企業に求められる長時間労働対策

長時間労働を防止するため、企業が実施するべき対策として以下の4つがあげられます。

1.人材確保による業務負担軽減
2.労働時間管理の適正化
3.休暇取得や制度利用の促進
4.健康リスクの把握

    1.人材確保による業務負担軽減

    人材不足が長時間労働の原因となっている場合は、採用活動を積極的に行い、人材確保を行いましょう。

    新卒や中途採用への投資を増やし、人材確保に努めます。従来の採用方法では限界がある場合、外国人人材も含めた多様な人材を採用できるよう、体制づくりを進めましょう。

    採用だけでなく、その後のフォロー体制も重要です。従業員が長く働けるよう、教育制度やフォローの充実、キャリアパスの明確化、業務裁量性の向上など、働きがいを高める施策を実施しましょう。

    2.労働時間管理の適正化

    長時間労働対策には、労働時間の把握が不可欠です。クラウド型システムなど、勤怠データを一元管理できるツールを導入して出退勤状況を把握しましょう。

    管理施策の導入後は、勤怠管理の形骸化が生じていないかのチェックも大切です。例えば、出勤記録を1週間分まとめて記載するなど、従業員が手動で記録する方法だと形骸化しやすくなります。出退勤時間が自動的にデータ化される仕組みを導入するなど対策を行いましょう。

    3.休暇取得や制度利用の促進

    長時間労働が良しとされる社内風土の場合、有給休暇や短時間勤務制度などの利用を促進しましょう。

    ただし、利用促進だけでは不十分です。従業員が安心して休暇取得できるよう、意識改善や業務プロセスの見直しが必要です。

    意識改善は、経営者が方針とメッセージを発信することが効果的です。従業員に方針を共有しながら理念浸透を図ります。

    業務プロセスは、属人化している業務をマニュアル化したり、不必要な会議の削減したりすることで改善していきましょう。

    4.健康リスクの把握

    労働時間の削減だけでなく、健康リスクの把握も重要です。周囲が不調の兆候を察知し、未然に防止する仕組みづくりが求められます。

    健康リスクの把握には、健康診断結果やストレスチェック結果を加味して対応することが重要です。過労死ラインや罰則規定に該当しない従業員でも、何らかの不調が生じている可能性があります。

    リスクが高いと考えられる従業員には、産業医と連携し、医療的な見立てを加味した対応を行いましょう。具体的には、産業医に面接指導を依頼し、就業上の配慮が必要か判断してもらいます。

    産業医と連携する際には、従業員の健康情報を整理し、必要な情報を伝えられるよう仕組み化できるとスムーズに進みます。

    長時間労働対策を行う企業の事例

    実際には、長時間労働対策として企業はどのような施策を行っているのでしょうか。3つの企業での事例を紹介します。

    ヤマト運輸株式会社

    ヤマト運輸では、経営構造改革の一環として労働に注力し、2030年までにディーセント・ワーク(※)の達成を目指しています。長時間労働対策として、労働時間管理ルールの見直しや入退館データのデジタル化を行い、労働時間を把握する仕組みを構築しました。

    また、勤務日数や時間を柔軟に選択できる制度を導入し、従業員の働きやすさを追求しています。過重労働を人権にかかわる課題と認識し、従業員がいきいきと働ける組織づくりに取り組んでいる点が特徴です。

    ※ディーセント・ワーク:働きがいのある人間らしい仕事を指す言葉。

    参考:労働慣行│ヤマトホールディングス株式会社
    参考:ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)について│厚生労働省

    大和自動車交通株式会社

    大和自動車交通株式会社は、東京都にあるタクシー事業を行う会社です。慢性的な運転手不足の解消を目的として、免許取得や研修体制、柔軟な勤務制度を推進しています。

    例えば、運転業務に不可欠な二種免許取得条件の緩和や、資格取得支援事業など若年人材の確保への取組を行っています。また、ベテラン運転手が営業に出るのが一般的ですが、同社では若手の運転手の教育を担います。

    勤務制度に関しては、出勤日数の調整や育児・介護などを含めた勤務形態の柔軟化を推進し、長く働ける人材確保に取り組んでいます。

    参考:ハイヤー・タクシー運転者の長時間労働改善に向けた改善ハンドブック│厚生労働省

    伊藤組土建株式会社

    伊藤組土建株式会社は、北海道札幌市にある建設業を展開する会社です。長時間労働対策として、クラウド型勤怠管理システムの導入や有給休暇の計画的な付与を行っています。

    建設業は現場や作業所が複数あるため、労働時間の管理が課題になりやすい業種です。同社では、クラウド型勤怠管理システムにより、本社での一元管理を行っています。一元管理によって、残業の多い作業所の把握やサポートが可能となり、作業時間の平準化や人員計画につながっています。

    また、安全書類チェックの外部委託や事務系職員の現場配属により、現場従業員の業務負担を軽減し、生産性の向上も実現。作業管理や効率化により、天候に影響される建設業では難しい週休2日制や時間制有給休暇、シフト勤務の導入も進んでいます。

    参考:建設業における働き方改革推進のための事例集│国土交通省

    法令遵守だけでなく健康リスクを踏まえた対策が重要

    長時間労働は、従業員の健康リスクを高め、企業全体のコスト増加や生産性低下をもたらす問題です。長時間労働への対策として、従業員の健康リスクを適切に把握し、発症を未然に防止することが特に重要です。

    そのためには、産業保健の専門家である産業医との連携が欠かせません。健康診断やストレスチェックの結果を踏まえて、過労死ラインや罰則規定に該当しない場合でも、健康リスクの高い従業員にアプローチする必要があります。

    法令遵守はもちろん、従業員の健康と生産性の向上を目指して、積極的に産業医と連携し、長時間労働対策に取り組んでいきましょう。