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ラインによるケアとは?メンタルヘルス対策に役立つ研修や管理監督者の役割を解説

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メンタルヘルス不調を原因とする休職や離職にいたる事例が年々増加し、職場のメンタルヘルスケアの重要性が高まっています。

令和4年度の厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス対策に取り組む事業所の割合は、50人以上の事業所で91.1%です。企業にとって、いまやメンタルヘルス対策は不可欠な施策といえます。

厚生労働省では、企業がメンタルヘルスケアを行うための「4つのケア」の一つとして、「ラインによるケア」を挙げています。管理監督者が不調の兆候を察知し、環境改善を行うメンタルヘルス対策です。

本記事では、「ラインによるケア」の内容と、具体的な取組、管理監督者への研修例を解説します。

参考:令和4年労働安全衛生調査(実態調査)│厚生労働省

ラインによるケアとは

ラインによるケアとは、管理監督者が部下に対して行うメンタルヘルス対策を指します。
管理監督者とは、一般従業員の労働条件決定や労務管理について事業主と同等の権限を持つ部長や課長等です。
管理監督者には、部下である従業員の健康に配慮する役割があります。そのため、部下の健康状態を把握し、不調の予防やストレスの軽減を目指すことが求められます。

厚生労働省が推奨する4つのケアの一つ

ラインによるケアは、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」で、厚生労働省が推奨する4つのケアの一つです。4つのケアは、企業が行うメンタルヘルス対策の基本として推進されているもので、以下の4つが挙げられます。

1.セルフケア:従業員が自分自身のストレスに対処するためのケア
2.ラインによるケア:管理監督者によるケア
3.事業場内産業保健スタッフ等によるケア:保健師や産業医などの社内の専門職が行うケア
4.事業場外資源によるケア:医療機関、地域の保健機関、従業員支援プログラム(EAP)など

ラインによるケアを行うメリット

ラインによるケアの具体的なメリットとして、従業員のメンタルヘルス不調の予防や離休職の防止、労働災害を中心としたリスク回避が期待できます。

メンタルヘルス不調の予防

メンタルヘルス不調は周囲から指摘されて自覚するケースも多く、発見が遅れてしまうことがあります。管理監督者が部下の異変を早期発見することで、メンタルヘルス不調の予防につながるでしょう。

また、管理監督者が積極的にラインによるケアを行うことで、チームやグループ内にもメンタルヘルス対策に取り組む空気が生まれ、結果として部署全体でメンタル不調を予防することが期待できます。

休職や離職の防止

メンタルヘルス不調者への対処が行われないままだと、休職・離職者が増加し、人員不足から環境がさらに悪化してしまいます。管理監督者が部下の心の不調に気づき、原因の改善に取り組むことで、休職や離職を防止できるでしょう。

また、米国国立労働安全衛生研究所が作成したNIOSH職業性ストレスモデルによると、上司や同僚からのサポートが仕事上のストレスを緩和するとされます。
管理監督者が部下の様子に注意することで、部下とのコミュニケーションが活性化されます。小さな困りごとでも気軽に相談しやすい関係が構築され、メンタルヘルス不調に陥る前に対処できるでしょう。

参考:NIOSH職業性ストレスモデル|こころの耳

リスクマネジメントにつながる

トラブルが生じ、企業や管理監督者の対応が不適切だった場合、安全配慮義務を怠ったとして労災請求の対象となる場合があります。安全配慮義務は、労働契約法第5条において、次のように定められています。

(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

引用:労働契約法 | e-Gov法令検索

「生命、身体等の安全」にはメンタルヘルスも含まれるため、管理監督者は部下の心の健康状態にも配慮する必要があります。

ラインによるケアは、法的リスクを回避し、企業の信頼を損なわないようにするためにも有効な施策です。また、訴訟に伴う費用や損害賠償の支払などのリスク回避にもつながります。

ラインによるケアの具体的な4つの取組

管理監督者が行うラインによるケアは、メンタルヘルス不調の予防だけではなく、労働災害へのリスクマネジメントにも役立ちます。

では、実際にラインによるケアを実施するためには、どのような取組を行うとよいのでしょうか。効果的な実施のためには、以下の4つのポイントに配慮するとよいでしょう。

・部下の変化に早く気づく
・部下からの相談に対応する
・職場環境を改善する
・職場復帰を支援する

1.部下の変化に早く気づく

ラインによるケアでは、部下にいつもの様子と異なるところはないか、早期に気づくことが大切です。具体的には、遅刻や早退などの勤怠や、仕事の能率の低下など、業務面に変化がないかという点に注意しましょう。

・早退や遅刻が増えた
・体調不良による欠勤が多くなった
・無断欠勤が目立つようになった

勤怠上の変化として代表的なのは、早退や遅刻、欠勤です。うつ病をはじめとしたメンタルヘルス不調で最初に目立つのは、胃痛や腹痛などの身体症状が多いとされています。体調不良に伴う早退や遅刻、欠勤が増え出したら早めに対処しましょう。


勤怠上の変化の背景にあるのは、体調不良や不眠が多いといえます。遅刻や無断欠勤の理由を職務怠慢だと決めつけるのではなく、不眠などの症状が悪化している可能性を疑い、適切な対処を取りましょう。

業務面の変化

・挨拶をしなくなった
・報連相が少なくなった
・職場での会話が減った、もしくは多弁になった
・仕事の能率が落ちた
・残業や休日出勤が明らかに多くなった

メンタルヘルス不調が続くと、やる気が出なくなったり、喜べなくなったりするなど、精神面の変化が生じます。そのため、コミュニケーションが減ったり、逆に多弁になったりすることがあります。挨拶の回数や報連相の量など、コミュニケーションの取り方に変化がないか注意しておくとよいでしょう。

また、集中力や判断力などの作業効率の低下も代表的な兆候です。明らかに残業や休日出勤が増えている場合は、仕事の能率が低下している可能性があるため、注意しましょう。

2.部下からの相談に対応する

部下のメンタルヘルス不調を早期に発見し、従業員の相談に適切な対応をすることは、管理監督者として重要な役割です。

相談対応のためには、普段から話しやすい関係を構築することが大切です。管理監督者には「話しやすい関係づくり」と部下の意思を尊重する「無理強いしない関わり」が求められます。

話しやすい関係づくり

相談対応のためには、話しやすい状態を作ることが大切です。個別に話すときは、個室で時間を取って面談すると安心感につながるでしょう。

また、相談内容は評価に関係しないことを伝え、部署内のメンバーに口外しないことを約束するなど、情報保護への配慮も行います。部下が話した内容は、否定せずに受け止め、相手の立場に立って聞く傾聴を意識しましょう。

無理強いしない関わり

メンタルヘルス不調の兆候が表れていても、支援や相談に拒否的な従業員もいます。背景には、悩みを打ち明けることに抵抗があったり、周囲の評価を気にしたりすることなど、さまざまな思いがあります。

「やる気が出ないのはうつ病だから病院を受診するように」と病気だと決めつけ受診を強制することは、かえって部下を苦しめる可能性があります。

無理強いすることなく、まずは管理監督者として心配していることを伝える態度が大切です。そして、代わりに産業保健スタッフへの相談を提案するなど、部下の思いに配慮した対応を心がけるとよいでしょう。

3.職場環境を改善する

ラインによるケアでは、メンタルヘルス不調の早期発見や相談対応に加え、職場環境の改善も重要です。ストレスの要因を特定し、適切な対処を行いましょう。

ストレス要因の把握

部下からの相談や聞き取りを参考に、ストレス要因を分析し、職場改善を行います。ストレス要因を特定しにくい場合は、以下のポイントを参考にするとよいでしょう。

1.過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができているか
2.労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされているか
3.仕事の役割や責任が明確であるか
4.仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であるか
5.職場でよい人間関係が保たれているか
6.仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされているか
7.職場での意志決定への参加の機会があるか

参考:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~│厚生労働省

改善のためのチームづくり

環境改善のためには、制度や仕組みを変更するため従業員全体の協力が必要な場合があります。そのための施策を話し合う場として、社内の衛生委員会が適切に機能するよう整備しましょう。

具体的には、衛生委員会と管理監督者が連携して仕組みを改善したり、業務の割り振りを考え直したりする施策が必要です。

4.職場復帰を支援する

メンタルヘルス不調による休職者の復帰支援もラインによるケアの一つです。

従業員の職場復帰は、主に産業保健職や人事労務担当者が職場復帰支援プランに基づいてサポートしますが、直属の管理監督者との連携が欠かせません。例えば、従業員の健康状態に適した業務の割り振りや通院時間の確保といった対応です。

業務上の配慮

多くの場合、復帰後も定期的な通院治療が必要であるため、通院のための時間を確保しましょう。月に何回の通院が必要か、主治医の意見を聞きながら、ルールとして決めておくことがおすすめです。

また、業務に関連するチームのメンバーにも、管理監督者から周知しておくと、休職者が安心して治療を続けられます。

管理監督者へのラインケア研修

ラインによるケアを行う管理監督者を教育するため、会社として研修を行うことが大切です。ラインケア研修により、管理監督者のメンタルヘルスケアへの意識を高め、部下のストレス軽減を行える人材を育成します。

効果的な研修を行うためには、短時間で現場にとって役立つ内容を組み込むことが重要です。例えば、部下とのコミュニケーション方法やケーススタディなどの実際に活用しやすいテーマに絞って行いましょう。

また、メンタルヘルスの問題と関係が深いのがハラスメントの問題です。メンタルヘルス不調の要因になるハラスメント例や相談対応など、管理監督者の部下への関わり方を学べるとよいでしょう。
管理監督者へのラインケア研修として、具体的なテーマ例は以下の通りです。

基礎知識

・メンタルヘルス不調の兆候
・環境改善の方法
・復帰支援の実際
・安全配慮義務と凡例
・ハラスメント

コミュニケーション

・傾聴や共感の技法
・部下との関わり方
・メンタルヘルス不調者への声かけ
・個人情報への配慮

ケーススタディ

・うつ病への対応
・相談に抵抗がある従業員への対応
・復帰後に無理をする従業員への声かけ

さらに、管理監督者自身のメンタルヘルスケアにも役立つセルフケアの研修を実施することも重要です。管理監督者がメンタルヘルス不調に陥ってしまうというリスクに対応するためにも、有効なアプローチです。

ラインによるケアは日常のコミュニケーションが重要

ラインによるケアは、管理職が主体となって行うメンタルヘルスケアの一つです。管理監督者には、メンタルヘルス不調を未然に防ぐため、部下の異変を察知し、相談に対応することが求められます。また、メンタルヘルス不調に陥った従業員のサポートも行い、円滑に復帰できるよう支援する役割があります。

ラインによるケアが効果的に発揮されるためには、管理職が日頃からメンタルヘルスケアを意識した行動を取ることが大切です。部下とのコミュニケーションが密になり、小さなことでも相談しやすいチームを構築できるでしょう。

そのためにも、会社として効果的なラインケア研修を行い、意識を高めていく必要があります。本記事で紹介したポイントを参考に、会社全体でメンタルヘルス対策ができる体制づくりを推進していきましょう。