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適応障害による休職は労災認定される?企業の対応と復職について解説

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厚生労働省の調査によると、メンタルヘルス不調による休職者は年々増加しています。メンタルヘルス不調のひとつである適応障害の患者数も年々増加しており、未然に防ぐための職場環境改善や復職支援など、企業の対応が求められます。

この記事では「従業員が適応障害と診断されたらどうすればいいの?」「適応障害は労災認定される?」とお悩みの人事・労務のご担当者に向けて、適応障害の具体的な症状や労災認定について解説します。復職支援や休職者を出さないための対策も紹介するので参考にしてみてください。

適応障害とは

厚生労働省が提供するe-ヘルスネットでは次の通りに定義されています。

日常生活の中で、何らかのストレスが原因となって心身のバランスが崩れて社会生活に支障が生じたもの。原因が明確でそれに対して過剰な反応が起こった状態をいう。

引用:e-ヘルスネット|厚生労働省

環境の変化など、ある特定のつらく耐えがたい状況や出来事によって、それまで通りの日常生活が送れないほどの不安や心配が強く現れる状態を指します。

ほかの人にとっては大きなストレスに感じなくても、当人にとっては大きな負担になるなど、個人のストレス耐性や捉え方が発症を左右するストレス性障害のひとつです。

参考:適応障害 / 統合失調症 | 厚生労働省

適応障害の主な症状

症状の特徴として、情緒・行動・身体と大きく3つに分けられます。

情緒:抑うつ気分、不安、怒り、焦り、緊張 など
行動:過度な飲酒や暴食、無断欠勤、危険運転、暴力、ギャンブル など
身体:頭痛、不眠、起床困難、めまい、動悸 など

これらは適応障害ではない人にも現れる症状ですが、仕事や対人関係に支障をきたすほど過剰に不安を感じ、過敏に反応してしまうのが適応障害の特徴といえます。

適応障害になる原因は?

適応障害になる原因は、仕事や人間関係などが多くを占めますが、大きく分けると主に外的要因と内的要因に分類されます。

外的要因

外的要因は人によってさまざまですが、主に仕事、家庭、恋愛など環境の変化や対人関係におけるストレスが主な原因となります。
適応障害はストレスの原因が明確であることが定義上重要となるので、その原因から離れることが改善への一歩です。
結婚や昇進などの一般的にはポジティブに捉えられる外的要因も、環境によってはストレスとなる可能性があります。

内的要因

ストレスの原因から離れても症状の改善が見られない場合、元々の性格や思考のクセなどが影響している可能性があります。ストレスの受け止め方のパターンに対してアプローチをしていく、認知行動療法などのカウンセリングを受けるのが効果的です。

適応障害を繰り返す場合は発達障害の可能性も

一時的に症状が落ち着いても再発を繰り返してしまう場合には、発達障害の可能性が考えられます。
発達障害は自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害などの脳機能に関係する障害です。「場の空気や雰囲気を読み取ることが苦手」「細かいことにこだわる」などが特性としてありますが、症状が軽度な場合、自他ともに軽度発達障害を認識しておらず適応障害と診断されるケースがあります。

参考:『軽度発達障害が背景にある適応障害への対応』|神奈川県産業保健総合支援センター

適応障害は労災認定される?

適応障害は精神障害の一種であり、業務に起因する精神障害は労災認定がされます。ケガや病気などの労災認定基準とは別途定められています。

精神障害の労災認定要件

労災認定のための要件は次のとおりです。

① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
② 認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと

引用:精神障害の労災認定 過労死等の労災補償 Ⅱ |厚生労働省

評価期間の特例

精神障害の労災認定要件では、発病前おおむね6か月の間に起こった出来事について評価されますが、「いじめ」や「セクシュアルハラスメント」のように継続的に繰り返される出来事については、それが始まった時点からの評価となります。

参考:精神障害の労災認定|厚生労働省

特別な出来事

労災認定要件の「②業務による強い心理的負荷が認められるかどうか」は、まず業務による心理的負荷評価表の「特別な出来事」に該当する以下の出来事があるかを検討します。

・生死にかかわる、極度の苦痛を伴う、又は永久労働不能となる後遺障害を残す業務上の病気やケガをした(業務上の傷病により6か月を超えて療養中に症状が急変し極度の苦痛を伴った場合を含む)
・業務に関連し、他人を死亡させ、又は生死にかかわる重大なケガを負わせた(故意によるものを除く)
・強姦や、本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクシュアルハラスメントを受けた
・その他、上記に準ずる程度の心理的負荷が極度と認められるもの

引用:業務による心理的負荷評価表|厚生労働省

労災保険に基づく休業補償給付

労災が認定された場合、休業初日から3日までは「待期期間」といい、事業者には休業補償(1日につき平均賃金の60%)を行う義務があります。労災保険に基づく休業補償給付が支給されるのは4日目からです。
労災保険は休業1日につき、給付基礎日額の80%(休業(補償)給付=60% + 休業特別支給金=20%)が支給されます。

療養補償給付

療養した医療機関が労災保険指定医療機関の場合、「療養補償給付たる療養の給付請求書」をその医療機関に提出すれば無料で治療が受けられます。家の近くに労災保険指定医療機関がなく、指定医療機関以外で受けた場合には、一旦立て替えて支払い、「療養補償給付たる療養の費用請求書」を労働基準監督署長に提出すると支払った費用があとから支給されます。

参考:労働災害が発生したとき | 厚生労働省

適応障害の労災認定事例

実際に適応障害が労災認定された事例をご紹介します。

新規事業の担当となったことにより、適応障害を発病したとして認定された例
Aさんは、大学卒業後、デジタル通信関連会社に設計技師として勤務していたところ、3年目にプロジェクトリーダーに昇格し、新たな分野の商品開発に従事することとなった。しかし、同社にとって初めての技術が多く、設計は難航し、Aさんの帰宅は翌日の午前2時頃に及ぶこともあり、以後、会社から特段の支援もないまま1か月当たりの時間外労働時間数は90〜120時間で推移した。
新プロジェクトに従事してから約4か月後、抑うつ気分、食欲低下といった症状が生じ、心療内科を受診したところ「適応障害」と診断された。
<判断>
① 「適応障害」は、対象疾病に該当する。
② 新たな分野の商品開発のプロジェクトリーダーとなったことは、別表1の具体的出来事8「新規事業や、大型プロジェクト(情報システム構築等を含む)などの担当になった」に該当する。失敗した場合に大幅な業績悪化につながるものではなく、心理的負荷「中」の具体例である「新規事業等の担当になり、当該業務に当たった」に合致し、さらに、この出来事後に恒常的長時間労働が認められることから、総合評価は「強」と判断される。
③ 発病直前に妻が交通事故で軽傷を負う出来事があったが、その他に業務以外の心理的負荷、個体側要因はいずれも顕著なものはなかった。
①②③より、Aさんは労災認定された。
引用:精神障害の労災認定 過労死等の労災補償 Ⅱ|厚生労働省

従業員が適応障害と診断されたら?企業がとるべき3つの行動

従業員が休職期間中に安心して療養に専念できるよう、人事労務担当者が対応するべき事務手続きや復職支援について解説します。

1.休職期間の決定

症状によって異なりますが、適応障害による休職期間は3か月〜6か月程度がひとつの目安です。本人の希望や主治医・産業医の意見を参考にしつつ、就業規則に則って最初の休職期間を決定しましょう。
期間内に復職ができない場合、就業規則で定められた上限までは休職の延長が可能です。
なお、休職診断書の提出が必要かどうかについても就業規則を確認しましょう。

2.給与や手当の確認

労災認定されている場合は前述の通り労災保険に基づく休業補償給付がありますが、私傷病で休職中の従業員に対して企業が給与を支払う義務はありません。企業によっては休職期間中の給与補償制度を設けているケースもあるので、まずは就業規則を確認しましょう。
企業から給与が支払われない場合、支給条件を満たしていれば全国健康保険協会・健康保険組合等から傷病手当金が支給されます。

3.復職支援

復職に向けた支援として、試し出勤制度やリワークプログラムが挙げられます。

試し出勤制度

症状は回復してきたものの「実際に復職して毎日フルタイムで勤務できるか不安」という悩みを解消するために、試し出勤制度が厚生労働省において推奨されています。試し出勤制度には大きく3つあります。

模擬出勤:勤務時間と同様の時間帯にデイケアや図書館などで時間を過ごす。
通勤訓練:自宅から職場近くまで通勤経路で移動し一定時間過ごした後に帰宅する。
試し出勤:本来の職場に試験的に一定期間継続して出勤する。

試し出勤中に上司の指示のもと、業務を行った場合は給与が発生します。また、傷病手当金の扱いについては保険者と確認をしておきましょう。

リワークプログラム

精神疾患によって休職している労働者に対して、職場復帰に向けたリハビリテーションを実施するプログラムです。医療機関、地域障害者職業センター、ヘルスケア事業者が運営するリワーク施設など、主に3つの機関・施設で受けられます。
プログラム内容は施設によって異なりますが、職場復帰に向けた生活習慣の適正化、ストレスマネジメントに関する学習、グループワークなどが一般的です。

適応障害による休職者を出さないためにはどうする?

適応障害による休職者を未然に防ぐために、また復職後の再発を繰り返さないために企業ができる取組をご紹介します。

ストレスチェックの実施

適応障害はストレスによって引き起こされます。
定期的に従業員のストレス状況をチェックし、職場環境の改善につなげることが大切です。

職場環境の改善を行う

ストレスチェックによる高ストレス者が発覚した場合、ストレスを感じている本人のセルフケアだけでなく、企業が職場環境の改善に取り組む必要があります。
職場のレイアウト、労働時間、作業方法、組織、人間関係などの職場環境を改善することで、ストレスを軽減しメンタルヘルス不調の予防を目指します。
職場環境改善について詳しく知りたい方は、厚生労働省の職場環境改善ツールを参考にしてください。

EAP(従業員支援プログラム)の導入

EAPとは、従業員の心身の健康に関するさまざまな相談を、医師や臨床心理士等の専門家が対応する支援プログラムです。メンタルヘルスだけでなくハラスメント、家庭問題や依存症など、健康維持に関するさまざまな相談を受け付けます。
EAPには企業内に心理士やカウンセラー、産業医などの専門家を置く「内部EAP」と、企業外に従業員が相談できる機関を設置する「外部EAP」があります。

産業医と連携し適切な指導・助言をもらう

ストレスチェックで高ストレス者と判定され、本人が面接指導を希望した場合、産業医等の医師による面接指導が労働安全衛生法で定められています。
医師は、対象の従業員にストレスとの付き合い方や対処法を指導するだけでなく、事業者が従業員の健康確保のために必要な就業上の措置を行えるように意見を述べます。主治医の意見だけでなく、職場環境や業務内容を把握している産業医の意見も取り入れることが重要です。

治療と仕事の両立支援

適応障害などのメンタルヘルス不調をかかえた従業員の治療と仕事の両立には、医療と職域の連携が重要です。
「病状回復」と「就労可能」のタイミングは、必ずしも一致するわけではありません。医療機関、対象労働者・家族、事業場(事業主・産業医など)の三者間で情報共有をしたうえで、適切なタイミングで復職判断をすることが復職後の定着につながります。

参考:メンタルヘルス 不調をかかえた労働者に対する治療と就労の両立支援マニュアル|独立行政法人 労働者健康安全機構

適応障害による休職を防ぐには早期発見が大切

メンタルヘルス不調者の早期発見には、ストレスチェックの実施や産業医の設置が欠かせません。従業員が抱えているストレスを把握し、適切な指導や職場環境の改善を早期に実施することで、適応障害などの発症を未然に防ぎましょう。