管理職向けのメンタルヘルス対策|役割や重要性、事例を紹介
従業員のメンタルヘルス対策を充実させるためにも、一般職との接点が多い現場の管理職は重要な役割を担っています。厚生労働省が推進する施策でも、管理職が担当するメンタルヘルスケアとして「ラインによるケア」が推奨されています。そこで示されているのは、管理職の従業員に対する具体的な接し方です。
管理職として、メンタルヘルスケアにどのように関わればいいか分からない場合は、まずは「ラインによるケア」を参考にするとよいでしょう。
この記事では、メンタルヘルスケアで管理職が担うべき役割や「ラインによるケア」の詳細について解説します。さらに管理職のメンタルヘルスケアの機能をサポートするための取り組み事例をまとめたので、ぜひ最後までご覧ください。
メンタルヘルスケアで管理職が果たす役割
厚生労働省が推進するメンタルヘルスケア対策において、管理職が果たす役割は「ラインによるケア」と呼ばれるものです。
「ラインによるケア」は、心の健康づくり計画の策定の際に示された重要な取り組みの1つで、他にも「セルフケア」や「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」、「事業場外資源によるケア」があります。
ラインによるケアでは、現場の管理監督者の従業員への接し方やサポートの方法、対応などについてどのようにすればよいのかが具体的に記されています。
次項で、ラインのケアについて詳しく解説します。
管理職が担う「ラインによるケア」とは
「ラインによるケア」は、次の3パターンに分けられます。
- いつもと違う従業員の把握と対応
- 従業員からの相談への対応
- 従業員の職場復帰への支援
管理職は以上の取り組みを心がけて、従業員の健康をサポートする役割が求められています。それぞれのケアについて詳しく解説するので、参考にしてください。
いつもと違う従業員の把握と対応
職場で従業員のメンタルヘルスケアを推進するためには、まずは管理職がいつもと違う従業員の様子に気付いて、素早く対応する必要があります。いつもと違う従業員に気づくためには、従業員の様子を観察して、通常とは異なる行動が見られないかどうかを確認することが大切です。
たとえば次のような様子の変化が、従業員の異常に気づくきっかけになる可能性があります。
(引用:職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための視診~|厚生労働省)
- 遅刻、早退、欠勤が増える
- 休みの連絡がない(無断欠勤がある)
- 残業、休日出勤が不釣合いに増える
- 仕事の能率が悪くなる。思考力・判断力が低下する
- 業務の結果がなかなかでてこない
- 報告や相談、職場での会話がなくなる(あるいはその逆)
- 表情に活気がなく、動作にも元気がない(あるいはその逆)
- 不自然な言動が目立つ
- ミスや事故が目立つ
- 服装が乱れたり、衣服が不潔であったりする
従業員に以上のような様子の変化が見られたら、話を聞き、産業医や医師の診察を受けるように促すことが大切です。もしくは管理職自身が、従業員の様子の変化について産業医や医師に相談できるような体制を整えておくのも、従業員のヘルスケア対策として有効です。
従業員からの相談への対応
管理職が従業員の相談に対応できるようにすることも重要です。そのためにも、従業員が上司に相談しやすい環境を整えたり、管理職自身が従業員からの相談に対応する姿勢を見せる必要があります。
管理職から従業員に声をかけ、積極的に話を聞き、従業員のためになるような情報を提供すると相談しやすい雰囲気になります。必要に応じて、保健スタッフへの相談や職場以外の医療機関や地域の保健機関の利用を促すことも大切です。
従業員からの相談を管理職が受けやすくするためには、管理職の傾聴スキルも欠かせません。事業所内で傾聴スキルを習得するための講習会を実施するのも、メンタルヘルスケア対策の1つです。
従業員の職場復帰への支援
メンタルヘルス不調に陥っていた従業員の職場復帰を支援するのも管理職の重要な役割の1つです。心身の不調で数か月間、休業を余儀なくされていた従業員は、復帰の際に職場の人間関係や病状について不安を抱えています。
そのような場合に、管理職が職場に復帰する従業員の不安を受け止められると、メンタルヘルス不調から回復しやすくなります。また職場復帰をしようとする従業員に対して管理職が理解を示すと、他の従業員の緊張が和らぎ、人間関係の摩擦を減らすことにつながるでしょう。
職場におけるメンタルヘルスケアはこちらの記事も参考にしてください。
管理職によるメンタルヘルスケアの重要性
昨今はストレスチェックが義務化されたり、仕事でストレスを感じる人が増えたりしたことで、管理職によるメンタルヘルスケアの重要性が増しています。
ストレスチェックが義務化された
2015年の労働安全衛生法の改正で、ストレスチェックの実施が義務化されました。それに伴い、事業所は年に1度、従業員のストレスチェックを行い、その結果を労働基準監督署に報告する必要があります。
ストレスチェックの義務化により、従業員のメンタルヘルス不調や精神疾患を早期に発見できるようになりました。それとともに、管理職がメンタルヘルスケアに関わることで、従業員の心身における不調の予防が期待されています。
半数以上が仕事でストレスを感じている
半数以上の労働者が仕事でストレスを感じています。そのため管理職が従業員のメンタルヘルスケアに関わり、ストレスの深刻化を防ぐことが重視されています。
仕事や職業生活に対してストレスを感じる労働者の割合について、令和2年までのデータを示すと次のとおりです。
以上のデータから平成14年以降は、半数以上の労働者が仕事に対して強い不安や悩み、ストレスを感じていることがわかりました。
仕事上のストレスを放置することで、多くの従業員がメンタルヘルス不調になる恐れがあるため、それを防ぐためにも管理職による従業員のケアが重要です。
メンタル不調者を出さないために上司ができるコミュニケーション術はこちらの記事を参考にしてください。
管理職によるメンタルヘルスケアが機能するための取り組み事例
管理職によるメンタルヘルスケアを機能させるためには、メンタルヘルス不調が出やすい時期に研修会を開いたり、管理職をサポートする支援スタッフを配置したりすることが有効です。それぞれについて事例を紹介します。
メンタルヘルス不調者が出やすい時期に研修会を開催
ある物流会社では、春先にメンタルヘルス不調者が出やすい傾向にあったため、その時期にセルフケアやラインケアに関する研修会を開催しました。
管理職に対するラインケア研修については、聞き出す力を育むためのスキルアップ研修が開催されたようです。カウンセラーが研修の講師を担当したことで、管理職や従業員がカウンセラーとの関係性を構築。その結果、メンタルヘルスについてカウンセラーに相談しやすい環境が整いました。
管理職をサポートするための支援スタッフを配置
ある大規模IT企業では、職場づくりスタッフを配置して管理職のラインケアをサポートする取り組みを実施しました。
管理職は従業員のメンタルヘルスについてサポートを行うだけではなく、現場業務を担当する必要があります。そのため管理職だけでは従業員のメンタルヘルスのサポートまで手が回らない現実がありました。
そこで管理職のラインケアをサポートできるスタッフを現場に配置。サポートスタッフには、管理職の所属部門出身のシニア層が職場づくり支援スタッフとして任命されました。
職場づくりスタッフは管理職と同じように、勤怠データを閲覧できるため、早期に従業員の勤怠状況の変化を察知できます。この取り組みは全社に広がり、100名以上の職場づくりスタッフが活躍しているとのことです。
管理職によるメンタルヘルスケアを推進しよう
管理職によるラインケアは、従業員の心身の不調を防止するためのメンタルヘルス対策の1つとして期待されています。
管理職が担う従業員のメンタルヘルスケアには、「いつもと違う従業員の把握と対応」と「従業員からの相談への対応」、「従業員の職場復帰への支援」の3つがあります。この記事では、それぞれのポイントについて解説しました。
また管理職のメンタルヘルスケアが機能するような職場づくりも重要です。メンタルヘルスケアが機能しやすい職場づくりのための取り組み事例を紹介したので、参考にしてください。管理職によるメンタルヘルスケアが機能しやすくするためには、産業医を配置して不調を抱える従業員の相談先を整えておくのも有効です。