〈後編〉12万件のメンタル相談に応えてきた専門家に聞く、コロナ禍のストレス対応法
ストレスの多いコロナ禍、管理職や産業医はどのようなメンタルヘルス対策を行うべきでしょうか。
前回に引き続き、横浜労災病院のメンタルヘルスセンター長として、20年間にわたりメール相談に応えてきた山本晴義先生にお話しを伺いました。
※オンラインによる取材
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ストレスと上手に付き合うために、セルフケアを大切にしよう
コロナ禍では、メンタルヘルスのセルフケアがより大切になりますね。
そうです。
そのために、まずは「希望を持つこと」。と、言ってしまうと少し抽象的になりますが、ストレスと付き合うためには欠かせない考え方です。
感染に関する怖さや仕事に関する不安など、こうした状況でマイナス思考になってしまうのはごく自然の現象であるということをまず知っておきましょう。
逆に、コロナ禍をチャンスと捉え、生きることの意味を考えることが大事です。
このような状況だからこそ「今できることはなにか」と考え、コロナ禍が明けたら動けるよう、前向きな気持ちで準備しておくことが大切です。
山本先生はどのようなストレスの発散、セルフケアを行っていますか。
セルフケアとして私自身が実践し、皆様にもおすすめしているのが「ストレス一日決算主義」というものです。
これは“その日のストレスはその日のうちに片づけてしまう”という取組みです。
私自身、スポーツジムにも通えず、講演で地方に行くことも出来なくなり、ストレス発散がしづらい日々を過ごすことになりました。
ですが、こうしたことも考え方ひとつで大きく変えられるのです。
今では、スポーツの代わりに家事をしたり、温泉の雰囲気が味わえる入浴剤を試したりして、ストレスを解消していますよ。
こうした取り組みは小さなことにも思われますが、メンタルヘルスのセルフケアには大切なことなのです。
企業の姿勢を伝えるためにも、管理職のラインケアが重要
働く人のメンタルヘルス対応として、企業や管理職としてできることはどのようなことでしょうか。
ストレスの多いコロナ禍で、働く人が適切なセルフケアを行っていくためにも、企業が「何かできることはないか?」と考え、適切なラインケアを行っていくことが大切です。
ですので、管理職の方は、従業員のお手本となるような活動をしましょう。
そのためにも、まずは「会社として新型コロナやストレス対策をしますよ」というメッセージが伝わるように、取り組む姿勢を見せること。
また、管理職の方は「マイナスの面を見るプロ」になっていませんか?
ひとりで働く状況が続くテレワークでは「自分は何のために働いているのだろう」と悩む従業員の方もいます。
承認欲求が満たされないことはメンタルヘルスにも影響しますので、従業員のプラスの部分を見つけ、メッセージを送ってみてください。
適切なコロナ・ストレス対策を行うためにも、リテラシーの向上が大切になりますね。
その通りです。
新型コロナ感染もメンタルヘルス不調も同じで「そうなってしまったらしょうがない」のです。
もちろん、個人・企業がそれぞれ予防について努力することが大切ですが、もし感染した人が出てしまっても、決して職場で差別したりすることのないようにしてください。
そのためにも、感染症に対して理解を深めることが重要なのです。
私自身、幼い頃にジフテリアに感染し、その当時に差別や偏見を経験しました。
しかしこれは、その病気に関する知識が足りないからこそ起こってしまう事態であります。
今や、誰しもがかかる恐れがある新型コロナウイルスです。
なので、まずは新型コロナとストレスについて、企業でも理解を深めておくこと。それが一次予防にもつながります。
新型コロナとストレス対策。大切なのは「一次予防」
メンタルヘルスに関する情報収集について教えてください。
私がスーパーバイザーとして携わっている「こころの耳」には、メンタルヘルスに関する情報が集約されていますので、ぜひ活用してみてください。
また、先日『メールカウンセリングエッセンス(刊行:労働調査会)』という本を出版しました。
本の中ではこれまでに届いたメール相談の事例をもと、私の回答が掲載されており、管理職の方にはヒントになる内容も多いです。
例えば「部下がどんなことに悩んでいるのか」「こんな時はどんな風に声をかけるべきか」など、日ごろのコミュニケーションにも役立てると思います。
※「こころの耳」の詳細はこちら
※『メールカウンセリングエッセンス』の詳細はこちら
コロナ禍、職場のストレス対策ではどのようなことが大切になりますか。
新型コロナ対策とストレス対策には共通点があります。それは「一次予防が大切」だということです。
感染症に関して言えば、産業医などのスタッフから、信頼できる予防法等の知識を職場で共有してもらい、働く人のリテラシーを向上させること。
ストレス対策も同じなのです。
ちょっとしたことでも働く人が相談できるように、まずは産業医の存在を職場に知ってもらうこと。そして、気軽に話せるような関係を作っておくことが大切です。
中には「自分は感染症・精神科の専門じゃないから」と対応してくれない産業医がいるとも聞きますが、それでは産業医の意味がありませんよね。
ですので、産業医の先生には、従業員が安心できる存在になってほしいです。
最後にメッセージをお願いします。
繰り返しになりますが、過去と他人は変えられません。しかし、未来と自分は変えられるのです。
新型コロナとの闘いはまだ続きそうですが、どうか悲観的にならず、一度きりの人生を大切にしてください。
個人として、企業として、産業医として、それぞれが出来ることに取り組み、この危機を乗り越えていきましょう。